映画案内「南の島の大統領 沈みゆくモルディブ」を見て

2013年8月13日

海渡 雄一(脱原発弁護団全国連絡会 共同代表)

我々は希望を捨てない

 木内みどりさんと水野誠一さんに奨められ、夫婦で「南の島の大統領 沈みゆくモルディブ」を見に行きました。素晴らしい映画です。一人でも多くの方々にこの映画を見ていただきたいと思い、ご紹介します。
 この映画は2008年にモルディブの大統領に選ばれたナシード氏の地球温暖化との闘いを描いたドキュメント映画です。監督は「スーダンのロストボーイズ」のジョン・シェンク監督。インド洋に沈みつつある小国の大統領がコペンハーゲンCOP15を目指して、イギリスの国会や国連総会などでも自分たちの国が国土を喪いつつあることを訴え、中国やインドも交渉に引きずり込み、世界中の国々が協力してCO2削減に取り組む合意を決めるまでのスリリングなストーリーが後半です。
 繰り返し、モルディブの美しい海岸が浸食され、少し前まで陸地だったところが海になっているさまが写され、地球温暖化の脅威を肌で感ずることができます。このままのペースで温暖化が進めば、まもなくモルディブの多くの島々は放棄しなければならなくなるという強烈なメッセージが込められています。

拷問と投獄・独居拘禁を受けながら民主化のために闘う

 私がこの地球温暖化防止のための闘いを描いた後半以上に惹かれたのは、彼がモルディブの大統領に選ばれるまでのすさまじい闘いを描いた前半です。ナシードの青春時代のモルディブはガユーム大統領の30年に及ぶ長期政権の下で、反対政党の結成すらも認められない一党独裁の国家でした。
 ナシード氏はスリランカとイギリスへの留学から帰り、政治の民主化を求め、政治雑誌「サング」を発行し、10回以上も逮捕され、投獄されます。二度は拷問を受け、1年半トタンづくりの小屋に独居拘禁されたといいます。1991年にはアムネスティの良心の囚人に選ばれたこともありました。1999年には国会議員に当選しますが、2001年にはえん罪をでっち上げられて逮捕され、議席を失います。
 映画の中で、独居拘禁された時代を回想したナシード大統領の言葉を引用しておきます。
「自由に動けなくてもできることはある。心の中で散歩に行ける。鎖につながれていない時は独房の中を数歩、何回も何回も往復する。巡り来る時間をそのまま受け止める。独房で過ごす一年半はほんとうに長かった」
 2003年にハッサン・ナシームという青年が刑務所で刑務官による暴行で死亡します。ナシームの母親は、泣き寝入りを拒み、息子の無残に拷問された遺体を公開します。この事件をきっかけに政権批判の暴動が起きます。
 2004年にはスマトラ沖地震による津波がモルディブを襲い、津波によって74名が死亡し、首都機能をもつマレ島の3分の2が冠水します。この復興のために海外からの援助を受けるため、ガユーム政権も民主化の要求に少しずつ応ずるようになります。2005年にはナシードは逮捕覚悟で亡命先のイギリスから帰国します。この当時の映像は感動的です。ナシードは何度も逮捕されながら平和的なデモを組織して政治活動を続け、2008年には、ガユーム政権を追い詰め、遂に複数政党制による大統領選挙が実施されることとなります。

先進国と発展途上国の対立を乗りこえるために闘う

 ナシード氏は、当初は当選は難しいと思われながら、全党をくまなく歩く選挙戦でガユーム氏に勝利し大統領となります。民主主義の勝利、そして41歳の大統領誕生です。2009年には10年以内にモルディブをカーボン・ニュートラル(排出量と吸収量を均衡させる)な国とすると発表します。12月のCOP15では、先進国と途上国との激しい対立の中で、合意成立のために重要な役割を果たし、2010年には国連地球大賞を受賞しました。しかし、2012年には前政権派による反政府デモによる混乱の中で辞任を余儀なくされました。2013年9月には5年ぶりの大統領選挙が予定されており、ナシード氏はその選挙戦を元気に闘っているということです。
 ナシード 氏はとても人なつこく、チャーミングです。ともに民主化を闘った妻のライラ・アリさんや環境大臣のモハメド・アスラムさんなど、登場人物の多くがとても素敵な方々です。モルディブ民主化闘争をともに闘った同志たちが地球温暖化防止のために世界を相手に活躍するという、わくわくする冒険活劇ドキュメンタリーになっています。コペンハーゲンの会議で合意が成立した直後にナシード氏がモルディブのお母さんに喜びの電話をかけているシーンがとても印象的でした。

政治的民主主義と基本的人権、地球的環境保護

 この映画は、政治的民主主義と基本的人権、地球的環境保護の課題が、どれも密接に絡み合っていることをこれ以上は望めないほど明確に描き出すことに成功しています。イギリスの映画スタッフが持ちかけた密着ドキュメンタリー撮影の計画に大統領が即決で応じたことにも驚きます。ナシードの政府には何も秘密など必要ないと言うことなのです。
 この秋には人権侵害を正当化する憲法改正・政府の秘密を漏らした人々を厳罰にする秘密保全法制と原発再稼働・原発輸出が政治課題となります。民主主義と環境保護のために命がけで闘うナシード氏は私たちに希望を捨ててはならないと語りかけてくれているようです。
 私は新宿のK’sシネマでこの映画を見ました。公式サイトによりますと、北海道、名古屋、京都、大阪で上映の予定があるようです。口コミで、この上映を成功させましょう!

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