声明:原発の新増設、40年運転制限撤廃に重大懸念

2022/11/24

本日、脱原発弁護団全国連絡会は記者会見を開き、下記声明を公表いたしました。原子力規制委員会にはFAXし、e-govのシステムから、内閣官房、経産省、原子力規制委員会、環境省に声明発表の要旨と声明のURLを送りました。
なお、最下部にPDFファイルをアップしています。


原発の新増設および福島第一原発事故の最大の教訓である原発の40年運転制限を撤廃することに強く反対する声明

2022年11月24日
脱原発弁護団全国連絡会
共同代表 河合  弘之
共同代表 海渡  雄一

1 岸田政権は、本年8月、原子力を最大限活用すると表明し、これまでの方針を転換し原発の新増設という方針を打ち出した。また、報道によれば、経済産業省は、原子力発電所の運転期間を最長60年とする規制を撤廃する案の検討に入ったとのことであり、素案では運転期間に上限を設けず、規制委の審査を経て何度でも延長できるようにするということである。このような政府の方針について、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、本年10月5日の記者会見で、「原則40年、最長20年延長できる」という規定(40年ルール)が原子炉等規制法から削除されることを容認したと報道され、原子力規制委員会は、11月2日、運転期間の上限を設けない新たな規制案を示した。

2 40年ルールは、福島第一原発事故において、2011年の事故時に1号機が運転開始から40年を迎える月にあり、設計の旧(ふる)さなどが事故の進展に影響したこと等を踏まえ、運転期間の上限を設けることで老朽原発による事故を未然に防ぐという観点から、事故後、当時の民主党と野党だった自民党と公明党と3党の合意により定められた。

このように、福島第一原発事故の最大の教訓として、国民の代表である国会で、しかも超党派の合意で法改正され法制化された原発の運転期間制限撤廃の方針を、国民の意見を十分聞くこともなく打ち出すことは極めて問題である。

老朽原発は、経年劣化の問題だけでなく、設計の旧(ふる)さや、施工技術等の旧(ふる)さが指摘されている。実際、福島第一原発でも、非常用配電盤の設置場所が、すべて同じフロアに設置されるという旧(ふる)い設計だったことが、津波でいっせいに機能を失う原因となったことが指摘されている。

原発1基当たり1000~2000㎞に及んで設置されているとされるケーブルも、旧(ふる)い原発は難燃性のものになっていない。本来は火災のリスクから全て難燃性ケーブルに取り替えなければならないはずだが、実際にはそれが困難であることから、現実の老朽原発では、複数のケーブルを防火シートでくるむだけの対策でよしとされてしまっている部分もある。

金属や、コンクリートの経年劣化による安全性低下も懸念されている。特に長期の運転による核燃料からの中性子照射に伴う原子炉容器の脆化問題は深刻である。原子炉容器は基本的に取り換えることが困難であるが、脆化が進行すると緊急炉心冷却装置の作動など、原子炉を冷却する事態が生じた場合に、原子炉容器自体が破損し大量の放射性物質が漏出する極めて重大な事故につながるおそれがある。

この中性子照射脆化に関する審査基準については、専門家からは脆化進行に関する予測式が理論的におかしいとか、例えば高浜原発1号機に関しては、運転後30年目に行った予測の結果と40年目に行った予測の結果に大きな違いが生じるなどの重大な問題点が指摘されている。

現在の知見では長期の運転に対する十分な審査基準が確立されているとは言い難く、実際の規制委員会による運転延長認可審査においても、徹底的に安全を確保しようとするのではなく、事業者の申請を鵜呑みにしてしまうような姿勢もみられることから、40年ルールを撤廃することには安全性に重大な懸念がある。

3 新増設については、エネルギー基本計画における「可能な限り原発依存度を低減する」という基本方針に明らかに矛盾するものである。この点、福島第一原発事故後に原発廃止を決定したドイツが、2022年末までに現在稼働中の3基の原発の運転を停止する予定であったものを2023年4月まで稼働可能な状態を維持するとしたが、これはロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機を受けての一時的なものであり、非常用の予備電源として停止時期を数か月延長したに過ぎない。ドイツの経済・気候相は、「原子力はリスクの高い技術であり、放射性廃棄物は世代を超えて負担になる」と指摘している。

4 原子力規制委員会は、福島第一原発事故の反省を踏まえ、「一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消する」ために、「中立公正な立場で独立して職権を行使する」委員会として設置されたものである。それにもかかわらず、原発を積極的に推進する現政権および経済産業省の新たな方針に意見はしないとの消極的な姿勢を示しており、その職責を果たしているとは言い難い。

5 今般、岸田政権が表明した原発の新増設および40年運転制限の上限撤廃は、「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生可能エネルギーの拡大を図る」というエネルギー基本計画の基本方針に明らかに矛盾するものである。同事故、そしてその教訓を踏まえた法改正からわずか10年程度しか経過していないにも関わらず、その最大の教訓を覆そうとするものであり、到底受け入れられるものではない。しかも、国民の命や健康、生活そのもの、ふるさとすら喪失させるほどの危険性を有する原発の中でもさらに危険性の高い老朽原発について、運転期間の上限を撤廃しようとすることは、到底国民の理解を得られるものではない。

私たちは、原発の新増設および40年運転制限の上限撤廃について、重大な懸念を表明するとともに、強く反対する。

以  上

声明文 [PDF]

オンラインで行われた記者会見

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