判例時報【連載】独立した司法が原発訴訟と向き合う

2018/02/15

判例時報最新号(平成30年2月11日No.2354号)に海渡雄一「伊方原発最高裁判決の再評価 福島原発事故を繰り返さぬための裁判規範を求めて」が掲載されました。これは同誌の連載「独立した司法が原発訴訟と向き合う」で、これまでに河合弘之弁護士「原発訴訟の基礎知識」(平成29年11月11日号No.2345)を皮切りに、井戸謙一弁護士「裁判官は課題を抱えているがなお期待に値する存在である」(平成30年1月21日号No.2352)が掲載されています。判例時報は主な判例の紹介や解説が掲載される雑誌で、法曹関係者ではよく知られていますが、この連載は一般の方でも読みやすいものかと思います。河合弁護士は原発訴訟といわれるものの基本から、その抱える課題をわかりやすく解説しています。また、井戸弁護士は昨今の住民側の請求を退けた決定の問題点を具体的に指摘し、裁判所の抱える問題は深刻であると警告しています(判例時報に「コピペ決定」というタイトルを見ることになるとは!)。今後、中野宏典弁護士の論考が掲載予定です(平成30年4月21日号No.2361)。バックナンバーもぜひお読みください。

なお、海渡弁護士による広島高裁伊方原発運転差止決定の解説文が平成30年3月11日号(No.2357,2358合併号)に掲載予定です。

海渡弁護士より、メッセージを頂きましたのでご紹介します。


 福井地裁判決、大津地裁決定を経て、広島高裁決定に至る脱原発弁護団の7年間の総決算として、原発再稼働をめぐる、すべての判決・決定を論評したものです。
14頁の大論文となりました。全文は是非誌面でお読みいただければと思いますが、最後のまとめの部分を再掲しておきます。

 私が、裁判所に求めたいことを、以下に箇条書きにしてまとめておきたい。
① 福島原発事故のような悲劇をくり返さないことを望む多くの国民は、司法に対して積極的な姿勢を求めている。市民の7割が再稼働に反対していると言うことは、保守層まで含めて、良識ある市民は例外なく、原発に反対しているとみるべきである。裁判所は、過去において国策に屈し、正しい判断ができず、福島原発事故を回避できた機会を失した痛苦な経験をみずからの責任として自覚・反省しなければならない。近時の大阪高裁決定などは、この反省を忘れ去り、次なる重大事故を招き寄せる論理を含んでいる。
② 判断の枠組みにおいて重要なことは、最終的な安全性の立証の責任を被告(行政訴訟であれば国、民事訴訟であれば電力会社)に負わせることである。
そして、求められる安全性の程度は、ゼロリスクを求めるものではないが、冒頭に述べたように福島原発事故を受けて改正された原子力基本法2条2項の趣旨を踏まえ、IAEAの諸基準など、確立された国際的な安全基準が求めている、10万年に一回以上の重大原発事故は避けなければならないという水準に置くべきである。
③ これまで裁判所は多くの司法判断において、「高度な専門的技術的判断」「社会通念」などと言い訳をしながら、国策に追随する判断を重ねてきた。しかし、原発にエネルギー源としての必要性・公共性がないことが明確となり、多くの国民の世論が脱原発を求めている今日、このような言い訳はやめなければならない。
④ 今後、樋口、山本裁判長に続いて、裁判官が良心に従って原発の差し止め判決を出し続ければ、一時的には財界や政府から司法権への圧力が強まるかもしれない。しかし、市民は勇気ある裁判所・政府から独立した裁判官を必ず支えることを信頼して良心を貫いて欲しい。
⑤ 日本は世界一の地震・火山大国であり、兵庫県南部地震を境に日本列島は火山と地震の活動期に突入したとみられる。しかも日本の原発は旧型で、本質的にはその安全性は改善されていない。このような状況で原発の再稼働を認めなかったいくつかの判決・決定は、まさに福島原発事故という悲劇を経験した司法の良識を示したと言える。市民の司法に対する信頼に応えるために、この良識に続く、勇気ある裁判所・裁判官が次々と現れることを心から期待する。

最後に、本稿を閉じるに当たって、私は、全国の法廷で、原発の再稼働を止めるために文字通り手弁当で働いている、とりわけ年若い弁護士の仲間たちに心から感謝したい。弁護士を取り巻く厳しい経済環境の中で皆さんの献身的な努力なくして3.11後の原発訴訟は成り立たなかった。そして、この原稿は、皆さんとの真剣な討論によって書かれた共同作業の成果である。

 ぜひ、ご一読を!

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