福島原発事故を上回る大災害につながる「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける『設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価』に関する基本的な考え方について」に断固として抗議し,適正な司法判断を求める声明

2018年3月13日

3月16日の会見動画をアップしました(このページの一番下)。声明のPDF:声明 *2018/3/22更新  

脱原発弁護団全国連絡会

共同代表 河  合   弘  之

 同  海  渡   雄  一

 

1 「設計対応不可能な火山事象の評価」に関する基本的な考え方の概要

 2018年(平成30年)3月7日に開催された平成29年度原子力規制委員会第69回会議において,原子力規制庁から,「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける『設計対応不可能な火山事象の評価』に関する基本的な考え方」(以下「基本的考え方」という。)が示された。

 これは,更田豊志原子力規制委員会委員長の指示によって作成された,原子力規制庁名義の文書であり,火山ガイドを改正するものではなく,火山ガイド改正を具体的に予定するものでもない。しかし,その内容は,巨大噴火のリスクが社会通念上容認される水準であることを考慮し,過去に巨大噴火を発生させた火山について,合理的な根拠なく「巨大噴火の可能性が十分に小さい」と判断できるというものであり,火山ガイドの立地評価の規定を事実上死文化させることを狙うものである。これは,広島高裁2017年(平成29年)12月13日決定(以下「広島高裁決定」という。)において,火山ガイドにしたがえば四国電力の伊方原発は立地不適であると指摘されこれが差し止められたことを踏まえ,同様の司法判断がなされることを牽制する意図によるものであることは明らかである。

 この「基本的考え方」は,原子力規制委員会・規制庁が,大規模な自然災害をも想定して,原子力災害の発生の防止に最善かつ最大の努力をし,もって国民の生命,健康,財産を保護し,環境を保全するという本来の責務(原子炉等規制法1条,原子力規制委員会設置法1条)を放棄することを公言するに等しいものであり,また,国際的な原子力安全の水準からも大きく逸脱するものであって,断じて容認できない。司法において火山事象に対する立地評価が問題となった5つの裁判例のうち,4つまでが前提とした「噴火の時期及び規模を相当前の時点で的確に予測することは困難」という現在の科学技術水準を,「考え方」は無視している。司法はこのような文書に惑わされることなく,真に独立した立場から法と良心にしたがって適正な判断をされたい。

2 低頻度事象を想定することは原子力規制の基本である

(1)「基本的考え方」は,巨大噴火が低頻度の事象であって,これを想定した法規制や防災対策が原子力安全規制以外の分野においては行われていないことを根拠とし,「巨大噴火によるリスクは,社会通念上容認される水準であると判断できる」としている。

 確かに,噴出物量数10km3程度を超えるような巨大噴火は日本列島全体でも6000年に1回程度の頻度で発生してきたものであり,一般的には低頻度な事象といえる。しかし,「基本的考え方」も認めるように,巨大噴火は広域的な地域に重大かつ深刻な災害を引き起こすため,その地理的領域において過去に巨大噴火を発生させた火山が存在する原子力発電所におけるリスク要因としては,決して無視できるほど低頻度の事象ではない。

 特に巨大噴火による火砕流等の設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する場合,原子炉及び使用済み核燃料プールが破壊され,長期にわたって大量の放射性物質が大気中に放出される結果,日本はおろか,世界中に放射性物質の付着した火山灰が拡散する事態となるのであって,その被害は福島第一原発事故をはるかに上回るものとなることが想定される。後期更新世以降(約12~13万年前以降)に火砕流に襲われたと見られる地域に立地している原子力発電所は日本に幾つもあり,それらにおいては巨大噴火のリスクは到底看過できない。「被害が大きければ大きい事象であるほど,たとえ低頻度であっても考慮する」という反比例原則は,リスク管理の基本であり,「基本的考え方」はこの基本的な原則に反するものである。

 原子力規制委員会・規制庁は,原子力発電所の安全確保に関する高度な科学的,専門技術的な知見を有する機関であることを自称するならば,「社会通念」のような曖昧で非科学的な概念に頼ることなく,巨大噴火の発生可能性とこれによる原子力災害の被害規模を定量化し,科学的根拠をもってそのリスクが許容できるほど小さいことを示すべきである。

 原子力基本法2条及び原子力規制委員会設置法1条は,原子力規制委員会が「確立された国際的な基準を踏まえ」て安全確保を図るべきことを定めている。確立された国際的な基準である国際原子力機関(IAEA)の策定した原子力発電所の火山ハザードについてのガイド(SSG‐21)にも,巨大噴火について低頻度ゆえにそのリスクを社会通念上容認されると考えてよい等ということは一切書かれていない。

(2)「基本的考え方」は,原子力規制以外の分野において巨大噴火が想定されていないことを強調するが,原子力発電所が有する特異な潜在的危険性の大きさからすれば,他の法規制や防災対策で想定されていないことは規制しない理由にならない。実際,原子力規制委員会はこれまで,他にこれを想定した法規制等が見当たらない,後期更新世以降の活動を否定できない断層等や,その確率が1000万年に1回以上の航空機落下による火災等をも想定した法規制を実施してきている。他の事象については極めて低頻度であっても考慮しているにもかかわらず,火山の噴火についてはこれらよりも相当頻度の高いものまで社会通念上容認するというのは不合理である。

 前記原子力規制委員会の会議において,更田豊志委員長は,噴火については地震のように低頻度の事象まで考慮しない理由として,地震は記録が多いが巨大噴火については記録がないことを挙げたが,まったく根拠のない言い分である。巨大噴火は,火砕流や火山灰の地質学的調査から,いつ,どこで,どの程度のイベントが起こったのか,後期更新世以降であれば相当程度特定することができている。一方地震については,痕跡が極めて残り難いため,古文書が残っていなければ数百年前の巨大イベントの特定すら困難である。実際,東北地方太平洋沖地震があるまでは,M9クラスの地震が日本で起こり得ること自体,ほとんどの地震学者が認識できていなかった。現在,東北地方太平洋沖型の地震は600年に1回程度の発生頻度であることが明らかとなっている。地質学的な低頻度大規模事象の特定という観点からすれば,地震よりも噴火の方がはるかに精度の高いリスク評価が可能である。

3 現在の火山学では「巨大噴火の可能性が十分小さい」という判断は不可能

(1)「基本的考え方」には,「過去に巨大噴火が発生した火山については,『巨大噴火の可能性評価』を行った上で,『巨大噴火以外の火山活動の評価』を行う」とあるが,火山ガイドには,過去に巨大噴火が発生した火山や巨大噴火の可能性評価についての特別の規定は存在しない。

 火山ガイドに規定されているのは,調査結果から原発運用期間中における活動可能性が十分小さいと判断できない火山については,噴火規模の推定をし,これが推定できない場合は,当該火山の過去最大の噴火を前提として設計対応不可能な火山事象の到達可能性の評価を行うということだけである。「基本的考え方」には,検討対象火山の最後の巨大噴火以降の期間のみを前提とした「過去最大の噴火規模」を用いることが記載されているが,これは巨大噴火のみを特段の合理的根拠なく立地評価の通常のフローから除外することを意味する。つまり,火山ガイドで定めた審査基準を,合理的な根拠を示すことなく,また何らの手続きを経ることもなく,大幅に緩和した審査を正当化しようということである。

(2)また考え方では,「火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態にあるかどうか,及び運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理的な根拠があるかどうかを確認する」と記載されているが,これも火山ガイドを無視した審査の正当化を狙ったものである。

現在の火山学の知見では,検討対象火山において巨大噴火が差し迫った状態にあると判断することは極めて困難であり,運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理的な根拠があると示すことは不可能である。また,原子力事業者が自ら,検討対象火山について「巨大噴火が差し迫った状態にある」,「運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理的な根拠がある」という評価材料を原子力規制委員会に示すことは,そもそもあり得ない。したがって,検討対象火山は,いかに過去に巨大噴火を繰り返しているものでも,必然的に,「巨大噴火が差し迫った状態にあるとは確認できない」「運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理的な根拠があるとは確認できない」という評価にしかならず,リスクは無視できるほど小さいという結論にしかならない。

 火山ガイドには,「設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立地は不適」と規定されている。これは文言上,原発運用期間中において設計対応不可能な火山事象を原子力発電所に到達させるような巨大噴火の可能性が十分小さいということの証明責任を,原子力事業者に課すものである。「十分小さい」という曖昧で緩やかな審査を許容するかのような基準の合理性は疑問であるが,リスクが小さいことの証明責任を事業者に課すという点では妥当なものである。

 「基本的考え方」は,火山ガイドにおけるこの妥当な部分を,完全に無効化させることを意図したものである。「基本的考え方」は,火山事象に係る立地評価についての審査が外形を取り繕うものに過ぎず,真に立地不適とするつもりはないということを,恥も外聞もなく公言するものとなっている。

(3)「基本的考え方」は,①「現在の火山学の知見に照らした火山学的調査を十分に行った」上で,②「火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態ではない」ことを確認し,③「運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理的な根拠があるとはいえない」場合には,少なくとも運用期間中の「巨大噴火の可能性が十分に小さい」と判断できるという,火山ガイドにはまったくない判断枠組みを示している。

 しかし,①原子力事業者が実施するような過去の火山活動の噴火履歴の調査,地球物理学的及び地球化学的調査では,運用期間中に巨大噴火の発生する可能性が十分小さいとは判断できないことは,これまで広島高裁決定や川内原発の再稼働を巡っての裁判である福岡高裁宮崎支部2016年(平成28年)4月6日決定(以下「宮崎支部決定」という。)が認定してきたとおりである。

②「巨大噴火が差し迫った状態」と判断できる「火山の現在の活動状況」とはどのような状況であるかも,現在の火山学では判断基準を示すことができない。原子力規制庁は,原子炉火山部会第2回会合において,火山活動が次第にアクティブになって巨大噴火に至るというイメージを示しているが,出席していた委員からは否定的な意見が相次いでいる。

 20世紀以降最大の噴火である1991年フィリピン・ピナツボ火山の噴火の際には,これに先立って米国地質研究所から派遣された調査チームが地元の研究機関と連携して火山監視に当たっていたものの,大噴火に至ることの判断は噴火の約1週間前までできなかった。この事例からすると,巨大噴火は1週間以内には差し迫っていないという判断ならばできるかもしれないが,そのような判断は,数十年単位となる原発運用期間中における巨大噴火の可能性評価には,ほとんど意味をなさない。

 また,③「運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理的な根拠があるとはいえない場合」という要件は,不合理を通り越してナンセンスというほかない。現状での原子力発電所の立地で承認を得たい事業者が,自らその障害となるような根拠を示すことは全く期待できないため,常に「運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理的な根拠があるとはいえない場合」に当たるという審査結果にしかならない。③は完全に無意味な要件である。

(4)広島高裁決定でも東京大学名誉教授の藤井敏嗣氏の見解を引用する形で認定されているとおり,現在の火山学の知見では,検討対象火山において運用期間中に「巨大噴火の可能性が十分小さい」という判断は不可能である。前記①から③によってこれを判断するという「基本的考え方」には何の科学的合理性もない。

 広島高裁決定では,現在の火山学の水準について正しい認識を持てば,火山ガイドにしたがうと,過去に設計対応不可能な火山事象が到達した可能性がある原子力発電所は,運用期間中における到達可能性が十分小さいとは評価できないため,立地不適となるとして伊方原発の稼働が差し止められた。原子力規制委員会・規制庁は,以後このような判決・決定がなされないよう,「基本的考え方」を作成したことは明らかである。事業者が相手方の原発裁判は無関心であるように装いながら,事業者が裁判で利するための文書を平気で作成・公表しているのである。原子力規制委員会・規制庁の実態は,事業者の「虜」に成り下がってその職責を著しく怠ってきた旧保安院・原子力安全委員会の時代から,まったく変わっていない。

4 VEI6クラスの噴火のリスクも容認し得るという暴論

 「基本的考え方」に示されている社会通念論は,宮崎支部決定や広島高裁決定を参照したものであることは明らかである。

 だが,宮崎支部決定や広島高裁決定が述べる社会通念は,噴出物量が100km3を超えるVEI7以上の破局的噴火についてのものであり,それ未満の噴火によるリスクが社会通念上容認できるとは述べていない。VEI7以上の噴火のリスクが社会通念上容認できるという評価についても,前記2で述べたとおり,原子力安全の常識や国際的な基準を踏まえない不合理なものであるが,「基本的考え方」はこれらの判断をさらに推し進め,噴出物量が数10km3を超えるようなVEI6の噴火の一部についても,そのリスクは社会通念上容認されると述べている。

 だが,広島高裁決定は,VEI6の噴火について,立地評価ではなく影響評価に関する部分ではあるものの,これを考慮しないことを差止めの根拠としている。VEI6も含めて噴火による原子力災害のリスクは社会通念上容認されるとしている「基本的考え方」は,いっそう不合理で,許容できないものである。

5 火山ガイドは根本から改正すべきである

 火山ガイドには,「事業者が実施すべきモニタリングは,原子炉の運転停止,核燃料の搬出等を行うための監視」であり,「火山活動の兆候を把握した場合の対処方針として,原子炉の停止,核燃料の搬出等が実施される方針(等を定めること)」等と規定されている。原子力規制委員会は,当初,この火山ガイドの規定どおり,巨大噴火についてはモニタリングによって相当前の時点で兆候を判断でき,火砕流が敷地に到達する前に核燃料を全部搬出できることを前提としてきており,巨大噴火によるリスクは社会通念上容認されるという投げやりな態度は示していなかった。「基本的考え方」には,モニタリングは「運用期間中の巨大噴火の可能性が十分小さい」という評価の根拠が継続していることを確認するため,評価時からの状態の変化を検知するものであると記載されているが,火山ガイドには,モニタリングを事業者に義務付ける意義を分かり難くするこのような見解も示されていなかった。

 運用期間中における破局的噴火の発生可能性が相応の根拠をもって示されない限り,そのリスクは「社会通念上容認される」という理屈は,モニタリングによって相当前の時点で巨大噴火の兆候を判断することが不可能であることが明らかになった後も,川内原発の稼働継続を許容するために,宮崎支部決定が捻り出した強弁に過ぎない。このような強弁に便乗する形で,原子力安全の常識を無視する見解を公表することは,原子力規制委員会・規制庁の存在意義自体を失わせるものである。

 立地評価についての火山ガイドの規定がそもそも不合理であることは,裁判所によって繰り返し認定されていることである。原子力規制委員会・規制庁は,嘘を嘘で塗り固めるようなことはもう終わりにし,直ちに「基本的考え方」を撤回することはもとより,火山学の水準を過大評価していた誤りを素直に認め,火山学や火山防災の専門家の中から公正な手続によって選定したメンバーからなる検討チームを新たに設置し,現在の火山学の水準と巨大噴火のリスクを正しく踏まえて,火山ガイドを一から作り直すべきである。

 そして,その間,明らかに巨大噴火によるリスクがある川内,伊方,及び玄海の各原発については設置変更許可処分を取り消し,そのうちの稼働している原子炉は即刻停止させるべきである。

6 我々は「基本的考え方」を正すことを裁判所に求める

 前記原子力規制委員会の会議では,石渡明委員から,「基本的考え方」は従来行われてきた規制の考え方を示すものに過ぎないことが述べられている。これは,従来から,原子力規制委員会が立地評価に関する火山ガイドの規定を捻じ曲げ,まともな審査をしてこなかったことを自白するものにほかならない。

 現在の火山学の知見では,今後数十年以内に検討対象火山において巨大噴火が発生する可能性を評価することはできないが,この火山国である日本では,いつか必ず巨大噴火は起こる。少なくとも後期更新世以降に巨大噴火の火砕流が到達している原子力発電所には,そのリスクがあることが明らかである。

 福島第一原子力発電所の事故は,巨大津波について一般防災では想定されていないことやその知見が不十分であることを言い訳にして,規制を先送りにしてきたことが原因である。今,巨大噴火が一般防災では想定されていないことや知見が不十分であることを言い訳にしてこれを規制しないことは,福島第一原発事故を引き起こした反省をまったく踏まえていないことを意味する。

 確かに巨大噴火は,多くの人命が失われることになる恐ろしい現象である。だが,巨大噴火だけであれば,少なくとも世界中に降る火山灰に放射性物質が付着し,世界規模の核災害を引き起こすことはない。一方,巨大噴火の火砕流で原子力発電所が破壊される複合災害となれば,想像を絶する量の放射性物質が世界中を覆い,半永久的に地球環境を汚染し続ける可能性がある。このような事態を今度こそ万が一にも起こらないようにすることが,法の定める原子力規制委員会の責務であったはずである。「後は野となれ山となれ」といわんばかりの無責任な規制を,法は断じて許容していない。

 脱原発弁護団全国連絡会は,我が国の国土で生活する全ての人の生命,身体及び財産を守り,我が国の美しい環境を責任を持って将来へ引き継ぐという法の理念を全うし,また,我が国の国民が国際的な批判を受けてその名誉と信頼を著しく失墜させることを防ぐため,この「基本的考え方」に対して断固抗議するとともに,裁判所に対して原子力規制委員会・規制庁の誤った「基本的考え方」を正すことを強く求めるものである。

以上

 

3月16日東京司法記者クラブにて。

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