速報:福井地裁、美浜原発差止認めず

2024年3月29日

本日、福井地裁民亊部(加藤靖、摸利純史、瀧田慎太郎)は、関西電力美浜原発3号機の運転差止仮処分申立てを却下しました。

福井地裁前で旗出しする申立人ら。


決定要旨[PDF]

決定正本[PDF]


弁護団声明[PDF]

弁護団声明
(福井地裁による不当決定について)


2024年3月29日
                     老朽美浜原発3号機運転禁止仮処分弁護団

1 本日、福井地裁民事部(加藤靖(やすし)裁判長、摸利純史(よしふみ)裁判官、瀧田慎太郎裁判官)は、住民らが、美浜原発3号機の運転差し止めを求めていた仮処分事件において、住民らの申立を却下した(以下「本決定という。」)。
2 本決定は、次のとおり数々の問題を有している。
(1)ばらつき問題
  経験式のばらつき問題について、本決定は、大阪地裁がこの問題を理由に大飯原発の設置変更許可処分を取り消した後に、原子力規制委員会がした弁解をそのまま採用し、新規制基準の改訂を是認し、不確かさに対する考慮をしていれば、ばらつきの考慮をする必要がないと断じた。関西電力がした不確かさの考慮が、経験式のばらつきの範囲をカバーしているのかの検討もなされておらず、原告ら住民の生命、健康に責任をもつ裁判所の判断としては、極めて不十分である。
(2)震源極近傍問題
  本決定は、震源極近傍地震動の特別考慮の要否のメルクマールが、「浅部断層において短周期地震動が生じるかどうか」であると問題を設定し、この点については専門家の間で議論が分かれていると評価しながら、そのことを理由に、「本件特別考慮規定が債権者らが主張するように、浅部断層から生成される短周期地震動が発生することを前提にしてその影響を考慮するように求めているということはできない。」と断じた。学界で短周期地震動が生じないと結論がでたのではないのである。議論が分かれているのである。そうであれば、原子力事業者としては、安全側にたって「短周期地震動が生じる」前提で対策を立てないと、住民の生命、健康を守ることはできない。原子力事業者の住民の安全に対する不誠実な姿勢をそのまま是認した不当な判断であるというべきである。
(3)地震について
本決定は、基準地震動の合理性の問題につき、債権者らの主張は地震動の数値を単純に比較するものであって、地域特性を踏まえていないとして、採用できないと判示した。
しかし、本決定は、債権者らの主張を全く理解していない。
債権者らは、まず客観的に計測等された多数の地震観測記録という数値が存在する以上、その中において基準地震動がどの程度の水準にあるのかを判断し、基準地震動が低水準であれば、そのような低水準の基準地震動が正当化されるかどうかについて地域特性等を考慮すべきだと主張しているのである。
本決定は、このような論理的な思考過程を踏むことなく、基準地震動が地震観測記録においてどのような水準にあるのかを具体的に検討することなく判断をしている点で全く不当である。
(4)基準地震動以下の地震動による事故の危険性
主給水ポンプは基準地震動に満たない地震動によって損壊又は故障する可能性があり、その場合たった一つの手順を失敗しただけでも緊急事態に陥る。
しかし、本決定は、炉心損傷対策がスムーズに実行されるという関西電力の主張を鵜呑みにし、債権者らの主張は抽象的な一般論を出ないと判示した。
本決定は、直近の能登地震の事例を目の当たりにしながら、具体的な緊急事態を想定することなく危険な老朽原発を許容してしまったのである。
(5)老朽化
劣化管理の困難性に関しては、原発内の膨大な機器や配管の老朽化に伴う劣化状況を全て把握することはおよそ困難であるにもかかわらず、代表となる機器を選別し、グループ化した上で評価をするという債務者側の手法について、安易に合理的であると判断している。また、高放射線量であるために目視による点検ができない部位の超音波探傷試験等の方法については、専門家からは傷等の見落とし事例があり信頼性に問題があると指摘されているにもかかわらず、具体的な理由もなく、目視点検以外の方法で点検することが可能であると述べるのみで、債権者らの主張を退けている。本件が申し立てられた後にも、長期間経過した老朽原発においては、蒸気発生器の伝熱管に減肉やひびが発見されたり(高浜原発3号機、運転開始昭和60年1月)、令和5年1月に「施工の不良」と「経年劣化」(あるいは「設計の不良」+「経年劣化」)という組み合わせの経年劣化事象が発生しているが(高浜原発4号機、運転開始昭和60年6月)、このような複数の要因を組み合わせた経年劣化事象は、現在の審査等においては想定されていない。それにもかかわらず、本決定は、債務者の行っている点検や原子力規制委員会の判断は合理的であるとの主張を覆すことはない、と判断した。
(6) 避難計画
  本決定は、避難計画の問題について、深層防護の考え方は、事前の計画としてあえて各防護階層の効果が十分でなかった場合に備えて対策を多層にするというものであり、人格権侵害による被害が生ずる具体的危険が存在するか否かにおいて第1から第4までの各防護レベルを捨象して第5の防護レベルに不備があれば直ちに地域住民に放射線被害が及ぶ具体的危険があると認めることはできない旨を述べる。
  しかし、深層防護の考え方は、事前の計画段階でのみ適用されるものではなく、まさに原発の安全性確保のために現行の法規制上求められているものである。すなわち、原発事故が起きないものとして安全神話に浸っていたために起きた福島第一原発事故の教訓を踏まえて、原発事故が起きるものとして、避難計画を含めた深層防護の徹底が求められているのである。
  元日の能登半島地震によって、地震時を具体的に想定していない現状の避難計画が、地震による原発事故時には機能しないことが改めて明らかになった。
  機能しない避難計画しかなくとも、原発を稼働することを認める本決定は、救命ボート等の救命設備を備えていない船舶の航行を認めるようなものであり、住民らを見捨てるものと言わざるを得ない。
3 以上のとおり、本決定は、人格権の価値を高らかに掲げた樋口判決決定とは真逆の決定である。
しかし、本決定に屈することなく、我々は全原発を廃止するまで闘う所存である。特に老朽原発だけでも直ちに停止するためにさらなる闘いを進めていく。

以上

 『司法大観』、『KANSAI UNIVERSITY NEWS LETTER — No.49 — June,2017』より。

 

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