トンガ巨大噴火を踏まえ、原子力発電所の再稼働に関する新規制基準における火山影響評価の見直しを求める声明

2022年2月15日

 

(声明PDF)

2019年6月17日福岡地裁、火山問題のみを争点とした川内原発設置変更許可処分取消訴訟の地裁判決期日前の門前集会。


2022年2月15日

脱原発弁護団全国連絡会

共同代表  河  合   弘  之

 同   海  渡   雄  一

1 フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ噴火の発生

  2022年1月15日、トンガ王国の首都ヌクアロファ(トンガタプ島)から約65km北方に位置するフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ島の海底火山において、大規模な噴火が発生した(以下「HTHH噴火」)。噴煙は高度15~6kmの高さまで上がり、わずか数十分の間に、直径500km(半径約250km)程度にも及ぶ傘型噴煙を形成した。エアロゾルは成層圏に達したと考えられる。

  HTHH噴火による衝撃波(空振)は地球上を駆け巡り、2000km以上離れたニュージーランドでも爆発音が聞こえたといわれ、世界各地で気圧の変化が観測され、日本でもその影響とみられる急激な気圧変化がみられた。

  また、太平洋岸の諸国に津波が到来し、日本でも最大1.2mの津波が観測され(奄美市小湊)、漁船の転覆などの被害が出た。トンガ政府は、津波の高さが最大15mに達したと公表している。これらの津波は、従来の津波のメカニズムでは説明ができない事象だったとみられており、空振が原因との見解もあるが、カルデラ陥没による水位の変化を指摘する見解もある。

  さらに、火山活動に伴うと考えられる海水の変色が300kmにまで広がっていることが確認されており、日本国内外の専門家も、噴火がこれで終わるのか分からないとしている。

  噴煙の規模からすると、世界的な寒冷化も引き起こした1991年のフィリピン、ピナツボ火山の噴火と同程度、10km3程度の噴出物を放出した可能性があるとされ、火山爆発指数(VEI)は5~6程度と考えられている。

2 事前に予測も警告もされなかった噴火

  フンガ・トンガ島及びフンガ・ハアパイ島は、いずれも巨大な海底カルデラ火口(高さ1800m、幅約20km)のへりに存在する別個の島であり、1000年ほど前に活動していたことが知られているものの、2009年に大規模な噴火が発生するまで、静かな火山であった。

  その後、2014年から2015年にかけても噴火が発生し、陸地が一体化してフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ(HTHH)島となった。しかし、一部に活動可能性を指摘する声もあったものの、基本的には、普段はいたっておとなしいなどとされていた。

  HTHH噴火に先立つ2021年12月、HTHHは再び噴火した。この噴火では、高さ約16kmにまで噴煙が立ち上ったが、その後に現地を訪れた専門家も、「異常な様子は何も見られなかった」と述べていた。

  このように、HTHHにおいて、今回のような大規模な噴火が発生することは、事前に予測されていなかったし、警告もされていなかった。HTHH噴火は、いわば想定外だらけの噴火といえる。

3 現在の知見では分からないことだらけであること

  日本を襲った津波の発生原因は不明確な点が多く、そのメカニズムは解明されていない。

  また、ピナツボ噴火と同程度とはいえ、その振舞いは、ピナツボ噴火とは大きく異なっている。鈴木雄治郎・東京大学地震研究所准教授(火山物理学)は、人工衛星が撮影した画像を基に噴煙の広がりを分析し、ピナツボ火山などの噴煙量のシミュレーションと比較して、1秒当たりの噴煙の量が、同火山の約3倍に上ると推定している。鈴木准教授は、「これほどの噴煙の拡大速度はこれまで見たことがなく非常に驚いている。」と述べている。他方で、火山灰・軽石や、気候の寒冷化をもたらす原因とされる二酸化硫黄の放出量は少なく、気候寒冷化は避けられそうだとの予測もされているが、なぜ二酸化硫黄の放出量が少ないのかはよく分かっていない。

  HTHH噴火は海底火山でもあり、陸上の火山に比べても知見の集積が少なく、分からないことだらけといってよい。アメリカ・スミソニアン協会の火山学者であるジャニーン・クリプナー氏も、「現時点では、わかっていることよりも疑問の方がはるかに多い状態」と述べているが、いずれにせよ、現在の科学技術の水準では、火山噴火に伴う事象・現象をすべて的確に把握できるとは到底いえない状況にあり、火山事象の予測には極めて困難が伴うということが、改めて明らかとなった。

4 日本とトンガの類似性、日本でも大規模海底噴火が発生し得ること

  HTHH噴火は、20世紀最大の噴火といわれるピナツボ噴火と同程度ではあるが、日本において、過去にこれよりも規模の大きな噴火は幾度となく発生しており、稀な現象とは決して言えない。

  日本は、地球上の活火山(過去1万年以内に噴火した火山)の約7%、111座が密集する世界一の火山大国である。また四方を海に囲まれた島国であるために、活火山の約3分の1が伊豆小笠原諸島や南西諸島などの海域に存在している。巽好幸・神戸大学教授は、トンガの地勢が、日本列島、特に伊豆・小笠原・マリアナ諸島と酷似していることなどの共通点を指摘し、日本でも、今後HTHH噴火のような噴火が発生し得ることを指摘している。

  2021年8月の福徳岡ノ場の海底火山噴火によって、日本列島に夥しい量の軽石が漂着し、原発関係者の間に緊張が走ったことは記憶に新しいが、これはHTHH噴火よりも相当規模の小さい噴火であった。約7300年前に破局的噴火を起こした鬼界カルデラは、近年、巨大な溶岩ドームが形成されていることが明らかになっているが、これはHTHH噴火をはるかに上回る規模の噴火であり、このような噴火が発生した場合に、どのような現象が発生するのかは、現在の科学では十分に分からないというほかない。

5 これまでの火山影響評価の誤り

(1) HTHH噴火は、現在の火山学の限界を改めて示したほか、火山事象による災害が、現実的で無視し得ないものであることを示したといってよい。

  ところが、原子力規制委員会が行う新規制基準適合性判断における火山影響評価は、実質的に、巨大噴火(地下のマグマが一気に地上に噴出し、大量の火砕流となるような噴火で、噴出量が数十km3を超えるようなもの)が発生しないものであるかのように矮小化する方向で進められてきた。2018年3月7日付「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける『設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価』に関する基本的な考え方について」(以下「巨大噴火に関する基本的な考え方」)は、それを具体化したものであり、その不当性については、当連絡会が2018年3月13日に発出した「福島原発事故を上回る大災害につながる「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける『設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価』に関する基本的な考え方について」に断固として抗議し、適正な司法判断を求める声明」に詳述したところである。

  しかし、その後、原子力規制委員会は、当連絡会の声明を無視したばかりか、2019年12月18日に火山影響評価ガイドを改悪し、「巨大噴火に関する基本的な考え方」を正式にガイドに取り入れてしまった。

(2) 改正火山ガイドにおいては、巨大噴火について、噴火に至る過程が十分に解明されていないこと、発生すれば広域的な地域に重大かつ深刻な被害を引き起こすことを認めながら、低頻度で、有史において観測されたことがないこと等を理由に、①現在の活動状況が巨大噴火の差し迫った状態ではないと評価でき(非切迫性)、②運用期間中に巨大噴火の可能性を示す科学的に合理性のある具体的な根拠が得られていない場合(具体的根拠の欠缺)には、そのリスクを容認できることとしている(4.1(2)項)。

  しかし、巨大噴火よりもさらに規模の大きいVEI7の破局的噴火ですら、白頭山(960年ころ)、タンボラ噴火(1815年)など、有史以降にも発生しており、日本周辺地域での有史以来の観測例があるかという科学的には全く意味のない事実に依拠する火山ガイドは前提を誤っている。

  噴火に至る過程が十分に解明されていないのだから、①の切迫性や②の具体的根拠を示すことも困難であり、実質的には、巨大噴火のリスクは無視されているに等しい(これまでに、巨大噴火のリスクを考慮すべきとされた例もない)。

(3) また、さらに問題なのは、巨大噴火に至らないけれども規模の大きい噴火すら考慮しなくてもよいかのような枠組みになっている点である。

  改正火山ガイドは、過去に巨大噴火が発生した火山において、巨大噴火の可能性が十分に小さいと判断される場合には、当該火山の最後の巨大噴火以降の最大の噴火規模を想定すればよいとしている(4.1(3)項)。

  例えば、阿蘇カルデラは、過去に4回もの破局的噴火(噴出量100km3超)を起こしているが、最後の破局的噴火である阿蘇4噴火以降の最大規模は、草千里ヶ浜軽石噴火(噴出量約2km3)であり、巨大噴火にすら至らないけれども、このガイドに従えば、草千里ヶ浜軽石噴火を上回る規模の噴火のリスクを考慮しないこととなる。

(4) 前述したとおり、HTHH噴火は、VEI6クラスの噴火規模である可能性があるうえ、今後も活動が続いて巨大噴火に発展する可能性も否定できない。今回の噴火で分かったことは、日本でも大規模な噴火が発生しうるということ、したがってそのリスクを無視してはならないということ、そして現在の火山学の水準では分からないことが多いということである。規模の大きな噴火のリスクを軽視し、矮小化しようとすることは、「社会通念」などではなく、原発を停止したくない立場にある者の思い込み(バイアス)ないし願望にすぎない。原子力災害から市民の安全を守ることを使命とする原子力規制委員会が、そのような思い込みや願望によって、広範囲に居住する多数の周辺住民の生命や身体等を危険に晒すことがあってはならない。火山の周辺に原発さえなければ、噴火が発生しても、ピナツボ噴火の例もあるように、数年~十数年程度で復旧・復興は可能である。原発があると、放射性物質の拡散により、その周辺が広範囲にわたって、半永久的に人の住めない地域となるのである。将来世代の権利や世代間倫理を持ち出すまでもなく、そのような危険を顧みずに原発を稼働することまで法が容認しているとは考え難い。

(5) さらに、これまでの火山影響評価においては、海底火山の影響についておざなりな評価しか行われてこなかったが、2021年8月の福徳岡ノ場の海底火山噴火や今回のHTHH噴火によって、海底火山の振舞いについて、現在の科学では分からないことが多すぎるということが明らかになった。この点についても、科学で分からないことを無視するのではなく、不測の事態が起こっても原発の安全が確保されるよう、保守的な評価を徹底する必要がある。

6 原子力規制委員会は、火山影響評価の方法等を全面的に見直すべきこと

  このように、HTHH噴火により、これまでの火山影響評価が、いかに誤った判断基準にもとづくものであるかが、事実をもって示された。

  福島第一原発事故に関する政府事故調査報告書(東電福島原発事故調査・検証委員会)は、福島第一原発事故以前に、「自然現象には現在の学問の知見を超えるような事象が起こることがあり、そういう極めてまれな事象への備えも必ず並行して考慮しなくてはならないという伝統的な防止対策の心得が考慮されなくなりがちになっていた」とし、リスク認識の転換を提言している。

  すなわち、「日本は古来、様々な自然災害に襲われてきた『災害大国』であることを肝に銘じて、自然界の脅威、地殻変動の規模と時間スケールの大きさに対し、謙虚に向き合う」べきこと、福島第一原発事故のように、「広域にわたり甚大な被害をもたらす事故・災害の場合には、発生確率に関わらずしかるべき安全対策・防災対策を立てておくべきである、という新たな防災思想が、行政においても企業においても確立される必要がある」ことなどを提言しているのである(最終報告書412~413頁)。

  現在の火山ガイドは、このような提言に明確に反している。原子力規制委員会は、HTHH噴火を契機として、科学の不定性、現在の火山学の限界を正しく踏まえ、規模の大きい噴火が現に発生するという保守的な前提に立って、火山影響評価の方法等を全面的に見直すべきである。

以上

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