不当決定:女川原発再稼働同意差止仮処分

2020年7月13日

7月6日、仙台地方裁判所(大寄麻代裁判長、齊藤研一郎裁判官、菊池真帆裁判官)は、住民らによる、女川原発の再稼働同意を仮に差し止める申立てを却下しました(住民ら申立人(債権者)らの申し立ての趣旨は、(1)東北電力に対して、同社から2013年12月26日付で申し入れのあった「女川原子力発電所周辺の安全確保に関する協定書」12条にの規定に基づく「女川原子力発電所2号機における設計基準対象施設及び重大事故等対処施設の設置及び体制の整備についての協議」に了解してはならない、(2)宮城県に対しては、経済産業大臣に対して、同大臣から「宮城県牡鹿郡女川塚浜字前田1において東北電力株式会社が設置する女川原子力発電所2号機の運転の再開」に理解を表明してはならない)。

申立人は宮城県石巻市の、女川原発から半径30キロ圏内の住民でした。従前の、原子力発電所の運転差止(民事訴訟)や、設置変更許可取消訴訟(行政訴訟)の請求の趣旨と異なり、いわゆる「同意」の差し止めを求めたものです。

申立人らは7月10日に即時抗告手続きを行いました。即時抗告にあたり、債権者団、弁護団から寄せられたコメントとともに決定書をアップします。

決定書 (PDFファイルが開きます)


債権者団,弁護団の即時抗告に向けてのコメント

令和2年7月10日

第1 即時抗告の申立

債権者17名は令和2年7月6日付の仙台地裁の仮処分決定(以下,本決定)に対し,本日(7月10日)仙台高裁に即時抗告を行った。

第2 即時抗告をした理由

1 深層防護の考え方を無視している(事故の可能性は立法事実によって既に明らかである)

本決定は

「避難計画の実効性が欠如しているという債権者らの主張に係る事実のみをもって,債権者らの生命又は身体という人格権が侵害される具体的危険性があると解することまではできない。」(28頁)
「本件2号機において放射性物質放出事故が発生する具体的危険性があることについても債権者らに主張疎明する責任がある」(24~25頁)

とした。
これは「一つの防護レベルが万一機能し損っても次の防護レベルが機能するようにしなければならない」という深層防護の基本的考え方に真っ向から反するものである。

 原子力規制委員会の「合格」を得ても, 放射性物質を外に放出する大事故が起こり得る(安全神話はもはや成立しない)ことを福島第一原発の事故から学んだ結果,30キロ圏内の住民の生命・健康を守る避難計画の策定が自治体に義務づけられたのである(災害対策基本法4条1項及び原子力災害対策特別措置法5条)。第1層~第4層までの防護が突破される可能性(放射性物質を外に放出する大事故の可能性)は,避難計画の策定を30キロ圏内の自治体に義務づけた立法事実である。
 福島原発事故以後,第1層~第4層までの防護が突破される可能性があることを前提に第5層の防護が法的に強化されたのである。
 30キロ圏内の住民が安心して暮らせるための最後の手段が避難計画であり,その不備を追及する住民に,放射性物質を外に放出する大事故が起きることの具体的立証することを求めるのは,この立法事実を無視している。
債権者らは,宮城県と石巻市に避難計画の策定を義務づけた立法事実(いつどのような条件の下に発生するかの予測はできなくても,第1層~第4層までの防護が突破され放射性物質を外に放出する大事故は起こり得る)に基づき,本件申立に及んだのであり,大事故の可能性は立法事実によって既に明らかである。

2 自己矛盾している

27頁で福島第一原発事故後の避難計画の位置付けに関する債権者らの主張をまとめ,末尾で

「これらによれば,本件2号機において放射性物質放出事故が発生する具体的危険性の有無という第1層から第4層までの防護レベルとは無関係に,債務者らにおいて災害対策基本法及び原災特措法に基づく避難計画の作成,毎年の検討及び修正の義務を尽くす必要があることは,債権者らの指摘するとおりである。」(27頁)

と債権者らの主張に理解を示している。しかるに,直後

「債権者らの人格権侵害を理由とする差止請求の可否という観点からは,本件2号機において放射性物質放出事故が発生する具体的危険性があることの主張疎明がない以上は…」(28頁)

と戻っている。戻る必要はないのである。
 先に述べたように,福島第一原発事故後,第1層から第4層までの防護レベルとは無関係に,宮城県や石巻市に災害対策基本法及び原災特措法に基づく避難計画の作成等を義務づけたのは,福島第一原発事故によって安全神話はもはや成立しないことを学んだ結果である。1層から4層が突破される可能性があると考えて避難計画を義務づけたのであるから,本件2号機において放射性物質放出事故が発生する具体的危険性があることの主張疎明は不要であり,本決定は自ら正当と認めた福島第一原発事故後の避難計画の位置付けに関する前記債権者らの主張のまとめと矛盾している。

 以上のように,避難計画の立法事実についてまで立証を求めるのは誤っている。30キロ圏内の住民であれば,事故は起こり得るという立法事実を前提に不備を追及することができると解されるべきである。本決定が出た日の原伸雄代表のコメント「残念ながら裁判所が安全神話に浸っているように見える」は正鵠を射ている。

3 実効性の欠如のレベルと知事の態度を検証していない
(5層の不備が甚だしければ人格権が侵害される具体的危険性がある)

 実効性の欠如のレベルが甚だしく(「ない方がまし」というレベル),最終の避難所にたどり着けないまま大量被ばくを強いられる危険性があるだけではなく,避難の途中で生命を落とす人もいると予想されるにもかかわらず,知事はその事実に向き合うことを拒否している。
 国が「具体的」「合理的」と認めれば一定の合理性は保証されたと明言する知事の態度は,住民にとってこの上なく危険なことである。30キロ圏内の住民は,放射性物質を外に放出する大事故が起きた場合,避難できないのではないかとの不安にさらされ,安心して暮らせないからである。
 被ばくの危険と直結するだけに,5層(避難計画)の実効性の欠如は,30キロ圏内の住民にとって,1層から4層までの実効性の欠如よりも深刻な問題である。30キロ圏内の住民の住民にとっての5層(避難計画)の実効性の重要性を考慮すれば,

① 実効性の欠如のレベルが甚だしい(最終の避難所にたどり着けない。先の見えない過酷な避難の途中で生命を落とす人もいる)
② 平成28年3月24日の国交省との打合せで「検査する台数から考えると,渋滞,トイレ,食料,ガス欠等,課題は多いと見受ける。渋滞が発生していると,検査をせずに避難する車両も多いのではないか。30㎞境界付近だけではなく,より遠いところでの検査も考えると良いのではないか」との貴重なアドバイスを受けながら,それらの課題を最後まで取り上げなかった債務者らの怠慢
③ 上記①②に向き合うことを拒否し,国が「具体的」「合理的」であると認めれば,正当化されたと公言している知事の態度

にメスを入れるべきである。本決定はそれを怠っている。①~③にメスを入れて,債務者らが違法な避難計画しか策定しないまま再稼働に同意しようとしていることの誤りを正すことこそが、本来の司法の役割である。

4 今に至っては地元自治体の同意が再稼働にとっての唯一の条件であることを理解していない

 本決定は

「本件了解等は,東北電力又は政府に対して本件2号機の再稼働を
積極的に求める性質のものとは解されない。」(25頁)
「最終的に本件2号機を再稼働する旨決定し,これを運転及び管理するのは
本件2号機の設置主体である東北電力である。」(26頁)

と判断しているが,今に至っては債務者らの同意(「本件了解等」)が事実上,女川原発再稼働の唯一の条件である。
 本決定は,柏崎刈羽原発や東海第二原発で地元同意が得られていないために,規制委員会の適合性審査を通過しても再稼働の目途が立っていないという厳然たる事実を無視している。
 規制委員会の適合性審査を通過した以上,女川原発が再稼働できるかどうかの鍵を握っているのは,宮城県,石巻市及び女川町の同意であり,これが女川原発の再稼働を左右する以上,債権者らの人格権を侵害する危険性のある行為というべきである。直接的侵害行為のみならず,これを左右する行為であれば差止めは認められるのであり(最高裁平成7年7月7日判決(国道43号線訴訟最高裁判決)等参照),これを「積極的に求める性質」の行為に限定するのは何ら根拠のない独自の判断である。

以 上

注:「立法事実」法律の制定時に法律による規制目的の正当性,規制の必要性,及び規制方法・手段の相当性を裏付け,法律の存続をさせる事実,とされている(辻村みよ子 憲法 第5版 467頁)

債権者団・弁護団コメント (PDFファイルが開きます)

『司法大観』より

同じカテゴリの記事

2020年8月3日
8月の原発裁判 発売中の週刊金曜日
2020年7月13日
不当決定:女川原発再稼働同意差止仮処分
2020年6月29日
7月の原発裁判 発売中の週刊金曜日
  • 脱原発法制定全国ネットワークページへ
  • このページのトップへ