大阪高裁・高浜原発差し止め仮処分命令取り消し決定に抗議する

2017年4月5日

海渡 雄一(脱原発弁護団全国連絡会 共同代表)

1 司法の責任を放棄した判断

 今年3月28日、大阪高等裁判所(山下郁夫裁判長)は、昨年3月9日に大津地方裁判所が発した関西電力高浜原発3,4号機の運転差止を命じた仮処分命令及びこれを認可した昨年7月12日の大津地裁決定に対する関西電力の抗告を認め、大津地裁決定を取り消しました。決定を一読してわかることは、裁判所として真摯に判断しようとした形跡がないということです。考えられる最悪の決定であったと言わざるを得ません。
 福島第一原発事故以前の司法は、ごく少数の例外的な判断を除くと、国の安全神話に疑問を差し挟むことなくこれを追認した結果として、福島第一原発事故の発生を招き寄せました。決定は、このような福島第一原発事故以前の原発訴訟のあり方に対する反省を欠き、福島第一原発事故以前の最高裁判所判決にも抵触する極端な行政判断追認の姿勢を示し、「二度と福島原発事故のような事故を起こしてはならない」との国会での審議を踏まえた法の趣旨や住民の切実な声を無視し、司法の責任をみずから放棄したと言わざるを得ません。

2 基準の合理性についての立証責任を住民に課した決定

 まず、決定の特徴は、福島第一原発事故の被害について何も認定していないことです。まるで、福島第一原発事故などなかったかのような決定となっています。
 とりわけ、新規制基準の合理性の有無については、これを争う住民側に実質的な立証責任を課しました。これは、伊方原発の最高裁判決(1992年)が、規制基準に不合理な点のないことの立証を被告国に負わせていたことにも反する、異常な判断です。その上で、電力事業者は「本件各原子力発電所が原子力規制委員会の定めた安全性の基準に適合することを、相当の根拠、資料に基づいて主張立証」すればよいなどという、福島第一原発事故以前に出された伊方最高裁判決よりもいっそう後退した判示をしています。これは、審査の内容がどのようなものであろうと、審査に通ってさえいれば原則として安全と考える、というに等しい決定です。基準や審査がおざなりになっていたことが福島第一原発事故を招いたという事実から、完全に目を背けた決定というほかありません。

3 基準地震動の策定についての決定の判断について

 決定は、基準地震動の策定のための方法について、次のように判示しています。

「地震という自然現象についての多数のデータについて,これらのデータに関する複数のパラメータ間の最も確からしい標準的な関係式(回帰式)を求め,地震という自然現象についての「最も確からしい姿」、換言すれば「標準的・平均的な姿」を明らかにした手法であるといえる。」
「原子力規制委員会も,新規制基準の策定及び同基準適合性判断において,抗告人が上記子法を用いて基準地震動を策定することを是認している。」
「上記手法を木件各原子力発電所敷地における基準地震動の策定に用いるに当たっては,当該敷地の『標準的・平均的な姿』からの『乖離』を考慮すべきであるところ,上記『乖離』の主要なものは本件各原子力発電所敷地の『震源特性』に該当する。木件各原子力発電所敷地周辺の『震源特性』に関して,過去の多数の地震の『標準的・平均的な姿』よりも大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータが存在するとは認められない。」

 しかし、震源特性のばらつきだけでなく、偶然的な要因によるばらつきが無視できないことは、数学的にはいわば常識であり、また、震源特性論の根拠とされている新潟県中越沖地震についても、柏崎原発において、平均をはるかに上回る地震動が到来することは、事前にそのような地下特性を見いだすことはできなかった経験を重視しなければなりません。決定の論理は、確実な事前の予測ができない点は、事業者側に有利に判断する、稼働を認める方向の考え方となっており、きわめて危険な判断となっています(150ページ以下)
地下の特性に関しても、本件原発のある若狭湾周辺地域の地下はしっかりとした岩盤であり、振動を増幅するように特異な特性はなく、地震動の評価にあたっては、平均値で評価することで足りるとも判示しています(160ページ)
 さらに、活断層の長さの評価についても、「本件各原子力発電所の敷地周辺地域は,活断層が繰り返し活動していることが確認されており,震源断層が地表地震断層として現れている地域であり,このような地域では,地表に現れた明瞭な痕跡を調査することで活断層を把握できると考えられている。」などと判示しています。事業者の希望的な観測を、まともな証拠もないのに、そのまま事実として認定しているのです(165ページ)
大飯原発についての福井地裁判決や、大津地裁の原決定に示されていたような、地震科学の限界や自然現象の予測の不確実さに関する洞察はみじんも見られません。

4 次の重大事故を準備する決定に抗議する 

 さらに、大津地裁の決定が指摘した、避難計画が規制審査の対象とされていない点についても、過酷事故そのものが起きる可能性が低いとして、問題としませんでした(329ページ)。このように、この決定は、悩みもなく、関電の主張や原子力規制委員会が昨年6月29日に公表した(同年8月24日に改訂)実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」と題する文書(これは、全国の原発差止裁判において争点となっている新規制基準の問題点について、「合理的である」と主張したもので、原子力規制委員会が被告電力会社の応援団の役割を果たしたものです。)に書かれた内容をそのまま認め、五層の防護を要求する国際的な基準も踏まえず、福島第一原発事故以前に過酷事故は起こらないとしてシビアアクシデント対策・防災対策を規制に含めなかったのと同じ過ちを繰り返すものです。
 今年3月17日の原発事故の損害賠償責任に関する前橋地裁判決では、東電だけでなく、国の過失までが認められ、福島第一原発事故が、人命より原発稼働を優先させてきた国の政策によってもたらされたことを明らかにしました。ひとたび重大な原発事故が起これば、その被害が償いきれないものになることは同事故の経験によって明らかとなりました。事故後6年を経ても、いまも被害が拡大し続けています。このような経験を踏まえ、同事故後、原子力規制委員会が設置され、これまでの安全審査の仕組みを根本から変えるとしていましたが、事故直後の意気込みは尻すぼみとなり、基本的な規制審査のやり方は、事故以前と本質的に変わっていません。現在の規制審査のあり方には重大な疑問が残っているのであり、大津地裁決定はそのことを正当に指摘して、高浜原発の再稼働を差し止めたのです。
 大阪高裁決定は、規制審査の問題点には目を向けることもなく、住民の指摘について真摯に考えた形跡もありません。国の審査に適合しているという判断だけを根拠に、住民の訴えを退けるという異常ともいえる行政追随の姿勢を示しました。このような司法判断を繰り返していれば、第2、第3の福島第一原発事故は避けられません。高浜原発において、次の重大事故が起きた場合、関西電力と規制委員会だけでなく、裁判所も連帯責任を負うべきです。
 裁判所は、自らの誤った判断が福島第一原発事故を生み出したという痛苦な反省に立って、原発の再稼働を認めるか否かの司法判断は、福島第一原発事故のような事態が万が一にも起こしてはならないという観点から、厳格に行うという立場をあらためて確立しなければなりません。
 脱原発弁護団全国連絡会は、この決定に強く抗議し、司法の自己反省と裁判所が市民の権利の砦として再生するために全力を尽くすことを誓います。

20170405抗議文(pdfファイル)

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