ご報告:大間原発差止訴訟(函館地裁)第21回、22回口頭弁論期日

2016年10月30日

 大間原発建設差止等訴訟の第21回口頭弁論期日が9月23日あり、証人尋問がいよいよ始まった。日本全国の原発差止訴訟の中で、最も早く進行している。

 

函館地方裁判所

函館地方裁判所

 この訴訟は、前鈴木尚久裁判長の時には期日が空転し、遅々として進まなかった。しかし、昨年4月に迎えた浅岡千香子裁判長に判断をもらいたいと、当事者双方はおおよその主張を終えた。来年3月に証人尋問を終え、来年6月には最終準備書面を提出する予定だ。
 この日の原告側証人は、原子力コンサルタントの佐藤暁さんと福島原発事故被害者で飯舘村民の菅野榮子さん。
 午前10時半から原告側による佐藤暁さんの証人尋問が始まった。佐藤さんは元GEにおり、原発の規制を知りつくしている。裁判所の関心事項である、原子力発電所の国際的基準の内容と、日本の規制基準の位置づけがどのようなものかを具体的に示していく。3・11東京電力福島第一原発事故を経験し、日本の原子力関連法規は改正され、国際法規を取り入れていかなければならなくなった。結論として、この大間原発がもし米国やヨーロッパで設置許可申請された場合は絶対に認められないと断言した。その理由を、具体的な事例をしめしながら尋問は進められた。IAEA(国際原子力機関)の原子力発電所に対する規制基準は国際的には最低限の規制レベルにもかかわらず、日本の新規制基準が全く甘いものである。たとえば東芝が米国で申請している原発にはついている安全設備が大間原発にはない。

代理人弁護士とともに裁判所に向かう菅野さん

代理人弁護士とともに裁判所に向かう菅野さん

 15時半からは、原発事故の被害がどのようなものなのかを、福島第一原発事故の被害者として、飯舘村の菅野榮子さんが証言した。主尋問を通じて、何世代にもわたって培ってきた飯舘村が一瞬に奪われたこと、家族がバラバラになってしまったことがあきらかにされた。菅野さんの出演した古居みずえ監督のドキュメンタリー映画『飯舘村母ちゃんたち 土とともに』では、飯舘村からの避難、避難中の心の揺れが丁寧に描かれている。原告からの尋問の後に、被告電源開発の代理人からの反対尋問があった。飯舘村の線量、食品の基準値や、除染の状況等についての上から目線の質問に対して、菅野さんは堂々と応じた。どのように除染作業しているか知っているかの質問には、青草を刈って、表土を剥いでフレコンパックに詰めて、10~15センチ剥いだその上に砂を客土として持ってくる、このような状況で百姓ができますかと菅野さんは問いかけた。村に帰っても、高齢者だけだと心配であり、24時間の見守り体制を必要だという菅野さんに対して、「いいたてホーム」はどうかと被告電源開発代理人が質問した。「いいたてホーム」は特別養護老人ホームだから介護3以上でないと入れないとの菅野さんの回答に、事の次第を理解していない相手方代理人の対応に法廷で失笑が漏れた。反対尋問によってかえって原告の主張を補強するものになってしまったのではないだろうか。
 菅野さんは、亡き夫の「苦労かけるね」という言葉を胸に、辛い避難生活を生き抜いてきたこと、今日もその言葉を抱きしめて福島から函館まで来たこと、函館・青森の皆さんには、自分と同じような思いをしてほしくない、原発は必ず事故を起こす、建設を止めてほしいとの切実な言葉に、原告席、傍聴席からはすすり泣きがおこっていた。大間原発反対の会代表の竹田さんは号泣して、菅野さんに駆け寄った。なお、菅野さんは、上から目線の質問を繰り返した相手方代理人に「ありがとうございました」という言葉を発して証言を終えた。

記者レク(弁護士会館)

記者レク(弁護士会館)

 翌週30日は、被告電源開発側の証人の主尋問がおこなわれた。若林利男東北大学名誉教授((旧動燃職員、原子核工学)による、内容はMOX燃料(プルトニウムとウランの混合燃料)について。ウラン燃料と比べてもMOX燃料は安全だと主張したいようであった。尋問内容は誘導に近いものも多々あった。示されたグラフに関して明らかな誤導に海渡弁護士より異議。尋問は12時に終え、この日の尋問と今後の裁判の行方など、弁護士会館で記者レクを行った。
 次回は11月10日、11日。佐藤暁氏への被告による反対尋問、若林氏への原告による反対尋問を予定している。
 本訴訟は3・11以前の2010年7月に電源開発と国を被告として提訴された。第7次提訴により原告は1000人を超えている。大間原発は建設中の発電所である。また、世界で初めてのフルMOX燃料による原発であることも特徴である。なお、大間裁判としては、函館市が自治体として初めて建設の差し止めを求めて提訴し、現在東京地裁に係属中である。

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