脱原発のための闘いと今後の展望(弁護士 只野靖)

2015年6月1日

事務局長の只野靖弁護士が「環境と正義 2015.6月号(特集 原発事故を考える、環境法律家連盟発行)」に執筆しました。

福井地裁決定に対する入倉発言に対しても反論しています。ぜひ多くの方に読んでいただきたく、転載いたします(太字、リンクは脱原発弁護団全国連絡会にて入れました)。

5月20日大飯仮処分・高浜異議審審尋期日後の記者会見

5月20日大飯仮処分・高浜異議審審尋期日後の記者会見


 3.11福島原発事故後、全国ほぼすべての原発について、運転差止を求める民事訴訟や、設置許可処分などを争う行政訴訟が提起されている。そして、その最前線の取り組みが、再稼働手続きが進んでいる川内原発と高浜原発の運転差止仮処分事件である。政治的には脱原発を全く期待できない状況において、これらの原発訴訟はいまや各地の脱原発運動の中核を担っているといえよう。
 これらの訴訟は、各地の市民から依頼を受けた各地弁護団がその中核を担っているものであるが、その弁護団同士の連携をはかるために、脱原発弁護団全国連絡会(河合弘之・海渡雄一共同代表)を組織しており、各地で提起されている訴訟における共通の論点の主張・立証を後押ししてきた。

 共通の論点のうちもっとも重要なものは、基準地震動が過小評価ではないか、という点である。この点を明らかにしたのが、内山成樹『原発地震動想定の問題点』である。基準地震動とは、原発の耐震安全性を確保する上で、文字どおり「基準」となる地震動であるが、過去10年間に4つの原発サイトで合計5回、基準地震動を超過するという事態が生じている(国会事故調報告書)。それもそのはず、実はこの基準地震動は、既往地震による地震動の平均を基礎として策定されてきたのである。この分野(強震動地震学)の第1人者であり原発の耐震設計の基準策定にも深く関与してきた入倉孝次郎氏は、下記のように述べ、原発の耐震設計が既往地震による地震動の平均でなされてきたことを認めている。
「基準地震動は計算で出た一番大きい揺れの値のように思われることがあるが,そうではない。(四電が原子力規制委員会に提出した)資料を見る限り,570ガルじゃないといけないという根拠はなく,もうちょっと大きくてもいい。・・・(応力降下量は)評価に最も影響を与える値で,(四電が不確かさを考慮して)1.5倍にしているが,これに明確な根拠はない。570ガルはあくまで目安値。私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが,これは地震の平均像を求めるもの。平均からずれた地震はいくらでもあり,観測そのものが間違っていることもある。基準地震動はできるだけ余裕を持って決めた方が安心だが,それは経営判断だ。」(平成26年3月29日愛媛新聞*2017/9/21リンク更新

 そして、驚くべきことに、この基準地震動の策定手法は、3.11福島原発事故後も何も変更されていない。それはなぜか。規制委員会で耐震ルール作りに関わった藤原広行・防災科学技術研究所社会防災システム研究領域長は、下記のように述べ、基準地震動の策定手法は、「時間切れ」で見直されていなかったことを明らかにした。
基準地震動の具体的な算出ルールは時間切れで作れず、どこまで厳しく規制するかは、裁量次第になった。揺れの計算は専門性が高いので、規制側は対等に議論できず、甘くなりがちだ」「今の基準地震動の値は一般に、平均的な値の1.6倍程度。実際の揺れの8~9割はそれ以下で収まるが、残りの1~2割は超えるだろう。もっと厳しく、97%程度の地震をカバーする基準にすれば、高浜原発の基準地震動は関電が『燃料損傷が防げないレベル』と位置づける973.5ガルを超えて耐震改修が必要になりかねない。コストをかけてそこまでやるのか。電力会社だけで決めるのではなく、国民的議論が必要だ」(平成27年5月7日毎日新聞夕刊
 基準地震動の策定手法の見直しがなされなかった背景には、福島原発事故の原因について、想定を超えた津波による全電源喪失が原因であり、地震・地震動による損傷は無かったという見解があると思われる。しかし、地震・地震動によって重要機器が損傷したのではないかという有力な指摘もなされている(国会事故調報告書)。ともあれ、原発事故の被害が甚大であることからすれば、原発は最も安全性に配慮しなければならない施設であり、その原発の耐震設計が地震・地震動の平均でなされている現状が放置されていいはずはない。

 裁判所も、福島原発事故で甚大な被害が発生したことに鑑み、この基準地震動が未だに既往地震の地震動の平均像でなされていることに、警鐘を鳴らしている。
 まず、昨年5月の福井地裁による大飯原発運転差止事件判決は、「4つの原発に5回にわたり想定した基準地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来しているという事実を重視すべきである。」として、原発の運転を差し止めた。
 また、昨年11月の大津地裁による大飯・高浜原発運転仮処分事件決定は、保全の必要がない(この段階で2015.6月号 環境と正義 3は、原子力規制委員会による新規制基準適合性審査が終わっていなかった)として結論としては却下したものの、理由中において、「自然災害を克服するため,とりわけ万一の事態に備えなければならない原発事故を防止するための地震動の評価・策定にあたって,直近のしかも決して多数とはいえない地震の平均像を基にして基準地震動とすることにどのような合理性があるのか」と述べ、原発の耐震設計について重大な疑義を提示している。
 しかしながら、原子力規制委員会は、昨年9月には川内原発について、本年2月には高浜原発について、いずれも新規制基準に適合しているとして、再稼働を容認した。ご承知のとおり、本年4月に、福井地裁は高浜原発の運転差止仮処分決定をしたが、その1週間後、鹿児島地裁は川内原発の運転差止仮処分を却下した。原発の再稼働をストップさせる闘いは、今がまさに正念場である。
 福井地裁決定について、入倉孝次郎氏は、愛媛新聞の発言内容を引用されたことに困惑したとして、「事実誤認」だと反発し、「入倉レシピでは過去の地震動を分析し、地震エネルギーに対する断層面積の平均値を計算。断層面積から起こり得る地震の最大のエネルギーを算出できるようにした。」としている(2015年5月20日県民福井新聞)。*2017/9/21リンク更新
 しかしながら、電力会社は、原発の耐震設計において、「断層面積から起こり得る地震の最大のエネルギー」を考慮しているわけではない。上に述べたとおり、電力会社は、断層面積から起こり得る地震の平均のエネルギーを基礎として耐震設計を行っている。この点について、住民側は、入倉氏の膨大な論文を含め、電力会社の申請書と規制委員会の審査資料を分析した上で主張・立証を行っており、なによりも、電力会社が、この事実を認めている。そこには何の事実誤認もなく、当然、裁判所にも事実誤認はない

 もとより、原発の再稼働を阻止できるかどうかは、原発訴訟だけで決着が付く問題ではない。世論の支持がなければ、裁判所の勝訴判決・決定は、簡単に覆ってしまうだろう。脱原発の実現のためには、いくつもの重層的な取り組みが必要だ。その取り組みを大きく分ければ、以下の2点であろう。
 まず、第1に、福島原発事故の事故収束と被害の回復を適切に行うことである。
 被害者の住宅確保に関しては、一定の前進が見られたが、東電に対する直接請求、ADR,訴訟のいずれの場面においても、課題は多い。自民党の東日本大震災復興加速化本部は5月14日、住民避難が続く福島県内の「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」について、事故から6年となる2017年3月までに避難指示を解除する目標を示したとされるが、避難指示が解除されれば、避難慰謝料もいずれ打ち切られることは必定である。しかし、避難指示解除準備区域は未だ線量は高く、それに隣接する居住制限区域においても、けっして安全・安心は回復されていない。

 とりわけ気になるのは、甲状腺ガンの多発である。国も福島県も東電も原発事故との因果関係を否定しているが、その根拠は薄弱である。そして、そもそも、福島県以外の都県では、検査すらなされていない。健康調査・健康診断のあり方は、速やかに見直されるべきである
 福島原発事故の責任追及も重要である。これは、東京電力の取締役らに対する刑事告訴株主代表訴訟という形で、取り組まれている。そして、これらの責任追及を全うすることは、他の電力会社の取締役らに対して、原発再稼働を思いとどまらせる抑止的効果を発生させるであろう。
 そもそも、原発事故の収束は、我が国の最重要課題である。しかし、現実には、汚染水の漏えいを止められていない。さらに、4 月になって各モニタリングポストが異常な線量を観測したこと、これは溶け落ちた核燃料が再臨界したことが原因ではないか、という報道もある(週刊プレイボーイ2015年4月)。事故収束作業をこのまま東電に任せていていいのか、再検討すべきである。
 また、膨大な除染廃棄物や指定廃棄物について、どこでどう処理するのか、最終的にこれを受け入れてくれる場所があるのか、も真剣に議論すべきである。

 第2に、さらに重要なのは、原発に頼らない社会をどう構築するのか、とりわけ自然エネルギーの飛躍的発展が必要である。ドイツでは、長年の脱原発を巡る論争が、福島原発事故後に決着が付いたが、その決定の背後には、原発が無くてもやっていけるという国民的な確信があった。日本では、未だエネルギー論争が絶えないが、すでに原発無しで4年もやってきたではないか。原発が無いといったい誰が困るのか。原発は平常時ですら被ばくを伴う労働を必要とする。放射性廃棄物については、解決策がみあたらない。今一度よく考えてみる必要がある。
 脱原発のための闘いは、もちろん極めて困難な闘いであるが、それだけにやりがいもある。今以上に、全国の弁護士に対して、この活動に参加して欲しい。

『環境と正義』(特集:原発事故を考える)

 

 

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