【書籍紹介】原発と裁判官 なぜ司法は「メルトダウン」を許したのか

2013年3月1日

新刊の紹介(弁護士 海渡雄一)

朝日新聞出版から『原発と裁判官 なぜ司法は「メルトダウン」を許したのか』磯村健太郎 (著), 山口栄二(著)が刊行されました。

アマゾンでも予約受付可能で来週発売となっています。編集のお手伝いをして、ゲラも読ませていただきましたので、少し感想を書いてみます。広告案内は次の通り。

「原発を止めてほしい」――そう願う住民らにとって「最後の砦」は裁判所だった。しかし結果は連戦連敗。なぜ司法は国策に沿う判決を書いてきたのか。これまでマスコミとの接触を避けてきた元裁判官たちが明かす原発訴訟の真実。

この本の最大の特徴は裁判官が自分の担当した原発訴訟について、きちんと語っていることです。多くの裁判官が自分の担当した事件について、報道機関のインタビューに応じたという自体が司法の世界ではかなり珍しいことです。福島の事故が裁判官にとっても大きな衝撃であったことがわかります。これだけのインタビューを集める作業は大変な困難なものであったと思います。裁判所という組織のガードの堅さを知るものとしては、著者であるふたりの新聞記者の執念に、心から敬意を表したいと思います。原告勝訴判決を書いた、二人の裁判長、志賀二号の井戸元裁判官ともんじゅの川崎元裁判官のインタビューはとても興味深いものです。特に、川崎さんのインタビューはこれしかありません。もんじゅ訴訟の高裁判決時には、弁護団も勝訴の確信を持っていましたが、あらためてこのインタビューを読むと、裁判官が、国策と対峙して、原告勝訴判決を書く覚悟を決めていく過程が良くわかります。今後の原発訴訟で、原告勝訴判決を取るためにも、担当弁護士にとっては必読文献といえるでしょう。私が弁護を担当した事件では、福島第2原発3号機の運転再開差し止め訴訟について、高裁で担当された鬼頭季郎判事が話されていて、鬼頭裁判官はこんな風に考えていたのかとわかり、私自身とても参考になりました。高浜二号の蒸気発生器に関する裁判を担当された海保裁判官のインタビューは、判決当時も、原発にイエローカードを突きつけた判決と言われたものでしたが、インタビューへの答え方も誠実で、好感が持てる内容でした。後半には最高裁の内幕、調査官裁判の問題性なども少し触れられています。全体として、原発訴訟のこれまでの負け続けた経緯には批判的な内容ですが、今後は裁判官に変わっていってほしいという前向きの内容になっていて、広く裁判官にも読んでほしい内容になっています。全国の原発訴訟に関わっておられる原告、支援の方々にも勇気を与えてくれる内容になっていると思います。原発訴訟に関心を持つみなさんにご一読をお奨めします。

*2018/6/21 リンクなど修正

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